2020.12.5 シネマテーク
『空に聞く』 小森はるか監督
『タネは誰のもの』 原村政樹監督
少し前に、東京都心の高層マンションを舞台にした『空に住む』という作品を鑑賞したが、タイトルは似ていてもスクリーンの中の世界は対照的。
こちらは東日本大震災の被災地で高い建物など一つもない陸前高田市。
「陸前高田災害FM」のパーソナリティを務められた阿部裕美さんへのインタビューを軸にしたドキュメンタリー。
小森はるか監督は、東日本大震災でボランティアとして訪れていたこの地に移り住まわれたそうで、住みながらでないと気づけないでものを記録していつかかたちにしたいという思いでいたときに阿部さんと出会われたそうだ。
東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業・同大学院修士課程修了の才女だが、ドキュメント作成については学ばれてはおらず、何度も壁にぶつかりながらも独自の手法で作り上げられた。
本当のドラマや感動は人の頭の中で作られるのではなく、現実にある日々の生活や何気ない言葉、いつもの風景の中に潜んでいる。
天に召された人たちには地上はどう見えているのか。
空からの声に耳を澄ます。
失われた風景に目を凝らす。
前作の『息の跡』と撮影時期は重なっていて、同時並行で撮られたとのこと。
『息の跡』のDVDはシネマテークでも購入できる。
次回作『二重のまち/交代地のうたを編む』の公開も楽しみである。
ポスターに名前のある瀬尾夏美さんは小森監督とは東京藝大の仲間で一緒に東北に移住されたアーティスト。
『空に聞く』の前に『タネは誰のもの』を鑑賞した。
鑑賞する3日前の12月2日に参議院で可決・成立した改正種苗法。
日本の優秀な種苗の海外流出を防ぐことを主目的としているが、映画の中で元農林水産大臣でありプロデューサーの山田正彦氏が、この法律では海外流出を防げないと理論的に詰め寄ると農林水産省の役人たちが黙り込むシーンがあった。
「安倍が嘘をつきだしたら下の者も平気で嘘をつくようになった」と、山田氏。
改正種苗法の他にも、2018年4月に廃止となった種子法や、農業競争力強化支援法などについて分かり易く説明されている。
上映後、全国愛農会会長の村上真平さんが登壇された。
タネは誰のものかと言えば、誰のものではなく、人類の共有財産。
誰が使ってもいいが、新しい品種を作った人は共有財産に戻す。
そうやって1万年以上続けてきたものが、ここ50年で大きく変化している。
改正種苗法により、自主採種が禁止され、農家が毎年タネを買うことになった場合、食生活の根源であるタネをモンサントなどの外資系企業に握られてしまうことになる。
少しだけ予備知識を持って鑑賞するとより腑に落ちる。
以前、実行委員をさせていただいた「なごや国際オーガニック映画祭」のイベントで『遺伝子組み換えルーレット』の上映と講演会が来年2月23日にある。
芸能人の不倫は熱心に報道されるが、こういった報道はほとんどされない。
ならば自分で知ろうとするしかない。