necojazz’s diary

ジャズを中心に雑食

戦争と一人の女

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 2021.2.14 刈谷日劇 井上淳一監督『戦争と一人の女』

 

永瀬正敏特集』9作品中5作品目。

 

坂口安吾の小説「戦争と一人の女」「続戦争と一人の女」を映画化した官能文芸ドラマ。太平洋戦争末期から終戦後の東京を舞台に、時代に翻弄された男女の交錯する運命を描く。時代に絶望した作家の野村は、飲み屋を営む元娼婦の女と刹那的な同棲を始め、貪るように体を重ねる。一方、中国戦線で片腕を失い帰還した大平は、戦場での精神的後遺症から妻との性交渉ができなくなっていた。しかしある日、数人の男たちに襲われている女を見て、自分が興奮していることに気がつき……。元文部科学省官僚で映画評論家の寺脇研氏が企画プロデュース。若松孝二監督の下で映画作りを学んだ脚本家の井上淳一が初メガホンをとった。

(映画.comより)

 

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企画当初はピンク映画を撮る予定だったそうだ。

企画内容は史上最低予算の戦争映画。

時代背景は日中戦争のさ中で、日本兵は中国大陸でも人殺しやレイプをしていただろうということから、PTSDになった帰還兵が長屋の一室に住んでいるという設定で撮ろうということだった。

井上監督が下書きを書くために戦時中の男女のメンタリティを調べていた時に出会ったのが坂口安吾の『戦争と一人の女』である。

 

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戦後間もなく書かれた『戦争と一人の女』はGHQの検閲によってかなりの部分が削除され、安吾は翌年にまったく同じ時間軸を男性目線から女性の一人称で語り直した『続戦争と一人の女』を発表した。

現在は『戦争と一人の女』の無削除版も読める。

中国戦線で片腕を失い帰国した大平は小説に書かれていないが、映画では天皇の戦争責任と中国での日本軍の残虐な行為について言及するという重要な役割を担う。

日本のここ最近の戦争映画の多くは、愛する人のために死にに行くとか、将来の日本のために礎となるとか、反戦を謳いながらもどこかで死を肯定していて、ましてやアジアでの加害行為や天皇の戦争責任はどこ吹く風。

映画だけでなく、大村愛知県知事のリコール運動で不正があったと取りざたされている話題の原点、あいちトリエンナーレの『表現の不自由展』の件も然り。

当然賛否両論はあるだろうし、そういう映画は流行らないが、誰かが作らなければ映画は死ぬ。

愛する人のために死んでいく姿を見て全員が泣いている光景は恐ろしい。

 

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 予算から見れば、永瀬さんが出演されるような作品ではないが、ダメ元でオファーしたところ脚本を読まれて、おしりがきゅと締まったそうだ。

真の役者は作品に飢えているし、監督の決意を見ているのだ。

永瀬さんが決まり、相手役を探すため柄本明さんに脚本を送ったところ「うちには江口がいる」と、今をときめく江口のりこさんの出演も決まった。

江口さんはNHKで『野田ともうします。』で主役をされていたのと時期が重なっているが、大胆な濡れ場にヘアも露出され、改めて凄い役者さんだと強く実感した。

 

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刈谷日劇情報其の3。

フリーメッセージボードにリクエストや伝言など自由に書き込むことができて、見ているだけでも結構楽しい。

私は井上監督のTシャツに書かれている『止められるか、俺たちを』をリクエストします。

 

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若松孝二監督の下で研鑽を積まれた井上監督が脚本を書かれている。

当時のピンク映画は反権力であった。