necojazz’s diary

ジャズを中心に雑食

のさりの島

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2021.7.1 名演小劇場 山本起也監督 『のさりの島』

 

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「もしもしばあちゃん、俺だけど…」

オレオレ詐欺の旅を続ける若い男が、熊本・天草の寂れた商店街に流れ着いた。老女の艶子は、若い男を孫の“将太”として招きいれる。若い男はいつの間にか、“将太”として艶子と奇妙な共同生活を送るようになり、やさしい“嘘”の時間に居場所を見つけていく。

地元FM局のパーソナリティを務める清ら(きよら)は、昔の天草の8ミリ映像や写真を集め、商店街の映画館で上映会を企画する。ひょんなことから“将太”も、上映会の企画チームに連れ込まれてしまう。賑わいのあった頃の天草・銀天街の記憶を取り戻そうと夢中になる清ら。かつての銀天街の痕跡を探す中で、艶子の持っていた古い家族アルバムに、“将太”は一枚の写真を見つける—

本渡の大火、焼け跡を片付ける町の人々、復興後の祭りの様子…。街に流れるブルースハープの音色と共に、スクリーンに映し出された天草のかつての記憶。

「将太さん、本当はどこのひとなの…」

(公式サイトより)

 

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“のさり”とは、いいこともそうでないことも、自分の今ある全ての境遇は、天からの授かりものとして否定せずに受け入れるという、天草の優しさの原点ともいえることば、だそうだ。

映画の中で“のさり”という言葉は一度も出て来ないが、映画の始まりからエンドロールが終わった後まで“のさり”の風が穏やかに流れていた。

先日ご紹介した『名も無い日』と同様に無口な作品であるが、その間にある無言の囁きこそに本質がある。

藤原季節さん演じるオレオレ詐欺をしながら渡り歩く若者は原千佐子さん演じる艶子の沸かした風呂につかり「あぁ〜っ」と気持ちよさそうに唸り、手料理には「うめぇ」と無心にぱくつく。

そして二人の奇妙な共同生活が始まり、ある日ある建物を訪れ、船の上からある物を無言で見つめる。

その表情は冒頭で電話をかけていた時のそれとはまったく違っていた。

 

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劇中に出演していたかかしが名演小劇場に出張されてロビーでお迎えしていただいた。

もちろん無言ではあるがその表情は雄弁であり、鑑賞後に「良い作品をありがとうございました」と心の中で呟くと、「そりゃ良かった、また来てね」と言われたので「はい」と答えた。

作品の公開を待たずご逝去された原千佐子さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

また会いに来させていただきます。

 

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音楽は谷川賢作さん、藤本一馬さん、小倉綾乃さんが担当されており、小倉さんは重要な役柄でご出演もされている。

ジャズファンならこの名前を聞いただけでも観たくなるだろう。

天草に吹く風のようなメロディが、天草の人情のような素朴な音色が、心に沁みた。

そして、シャッター街にぽつんと灯りがつく艶子が営むお店を楽器店にした理由がラストシーンで明かされる。

 

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カウンターには『のさりの島』公開記念 山本起也監督ドキュメンタリー作品特集上映のパンフレットが置いてあった。

 

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7/17(土)~25(日) ※火・水定休 ※7/23(金祝)監督舞台挨拶予定。

シアターカフェにて上映されるので、『のさりの島』を鑑賞後にこちらも是非。