2021.9.11 MOVIX三好
堀江貴大監督 『先生、私の隣りに座っていただけませんか?』
オリジナル映像企画を公募する企画コンテスト『TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2018』 の準グランプリ作品。(この年はグランプリ作品なし)
600を超える応募作の中から受賞された。
ココから発信される作品にハズレはないだろう。
漫画や小説などを映画化する場合、脚本に無理があったり、そもそも監督が乗り気じゃないのか、そこそこ売れたとしても作品としては残念な結果になる場合が多々ある。
映画に対する姿勢は作品に表れる。
前回の記事で堀江監督を追っていると書いたが、5年ほど前に『カツベン・ピープル』を映像化をしたいと伺ってからしばらくして周防正行監督の『カツベン』が公開された。
もしやと思って脚本家の名前を確認したところ堀江監督ではなかった。
着目は堀江監督が早かったとしても二番煎じの感は拭えないので、残念ながら映像化はないだろう。
観客は誰もいない劇場で活動弁師の山野慶二は何を語るのか、観たかった。
そして、商業映画デビュー作『ANIMAを撃て!』から3年、堀江監督、お待ちしておりました。
本当なら出身地である岐阜に近い名古屋でも舞台挨拶をしていただけるはずだったと思うが、緊急事態宣言が延長されたさなかなので仕方ない。
夫婦共に漫画家で、知り合った当初は俊夫(柄本)が佐和子(黒木)の先生であったが、今や売れっ子となった佐和子に対し俊夫は4年も作品を書けないでいる。
主要キャストは他に、俊夫の不倫相手であり佐和子の担当編集者でもある千佳(奈緒)と、佐和子が通う自動車教習所の先生・新谷(金子大地)に、佐和子の母親・真由美(風吹ジュン)といった5人。
主な場面も佐和子の実家と俊夫の車に自動車教習所の車内という映画としてはミニマムな設定で、ややもすれば間延びした退屈な作品になりそうだが、脚本の良さ、撮影の上手さ、プロフェッショナルな演技に引き込まれ、退屈さは微塵もなかった。
佐和子の新作のネーム(下書き)を読んだ俊夫は、妻は不倫を知っているのか?ただの妄想か?自動車教習所の先生とは不倫関係にあるのか?と錯乱し、悶絶と嫉妬の沼の中で藻掻く姿はシリアスであり滑稽でもある。
現実の世界と漫画の世界、ウソとホントの曖昧な境界線を行ったり来たりし、曖昧な部分は想像力を駆使して自分なりの解釈を加えることによりどんどんスクリーンに引き込まれ、ラストには曖昧な部分がスッキリとし、なるほどとさせられる。
期待を裏切らない展開に見事に予想が裏切られた。
もちろん、今年ベストの一本。
パンフレットはどちらも表紙になっていて、それぞれの立場から読み進められる。
スタッフ全員が感嘆したという佐和子が突然の涙を流す教習所のシーン、柄本さんのアドリブだそうであるラストに俊夫ぽつりとつぶやく言い回し、いろいろなことを踏まえて再鑑賞したい。
私世代の不倫漫画と言えば、柴門ふみ先生の『Age.35』。
映画を鑑賞する前に久しぶりに読み返したが、携帯電話が一般的になり始めた頃の古めかしさは否めないが、男の愚かさと滑稽なところはいつの時代も変わらない。
ご主人の弘兼憲史先生の作品にも大変お世話になっており、こちらもご夫婦揃って漫画家である。
主題歌の『プラスティック・ラブ』は、『Age.35』から遡ること10年、80年代のシティー・ポップの名曲のカバーで、映画とのマッチングもグッド。
作詞、作曲、歌が竹内まりやさん、プロデュースは山下達郎さんという夫婦合作で、そこも狙っての選曲だろう。
木を基調とした佐和子の部屋でちょっと違和感があったパンダのゴミ箱。
カンカン・ランランの2頭のパンダが初めて日本にやって来たとき、妹とお揃いで買ってもらったゴミ箱に似ているなぁと思ったが、部屋に帰って見たらどうやら絵柄が違うみたい。
妹のランランと同じ絵柄だったのかなぁ。
毎日見ているが、当たり前にあるものは意外としっかり見ていなかったりもする。
こちらは間違いない。
お気に入りのバンド、ペンギンラッシュの『アンリベール』。
予告編にもチラッとでている木製の桟橋には夕日がよく似合う。
ロケ地もいろいろと探されたのだろうが、とくに佐和子の実家は理想的だったと思う。
アンティークな門のようなものをくぐるとぽつんと一軒家が佇んでいて外界と隔てられたホラー屋敷のようだった。
2階に佐和子の部屋があり、そこに上がっていく階段が食卓から見えて、そこには魔物が住んでいる。
食卓を囲む場面では森田芳光監督の『家族ゲーム』が頭をよぎった。
やっぱり『いたくても いてくても』観たいです。
堀江監督、1年前に新しくなったシアターカフェかシネマスコーレあたりでよろしくお願い致します。