necojazz’s diary

ジャズを中心に雑食

牛田智大 ピアノ・リサイタル

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2022.3.4 愛知県芸術劇場コンサートホール 牛田智大 ピアノ・リサイタル

 

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会場の拍手がどよめきに変わった。

3回目のアンコールが終わり拍手に呼び出されて再びステージに立たれると深々とお辞儀をされ、誰しも舞台袖に戻られると思っていたところステージの真ん中へと向かわれた。

これまで数百回 (内クラシックは両手で数えられるくらい) というコンサートやライブに足を運んでいるが、4回目のアンコールは記憶にない。

 

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アンコール

ショパン 葬送行進曲  

リスト 愛の夢 

リスト 献呈 

シューマン トロイメライ

 

ジャズのライブでは次に演奏する曲をその場で決める場合も当たり前にあるが、クラシックのコンサートではプログラムをかなり以前から決めておく必要があり、奇しくもロシアによる侵攻を受けて50万人を超えるウクライナ人がポーランドへ退避している報道があった翌日に演奏されたオール・ショパン・プログラム。

ショパンの人生に非常に大きな影響を与えた出来事のひとつに、ショパンが祖国ポーランド出国直後に起きた、 「ワルシャワ11月蜂起」がある。

出国のわずか20日後、ワルシャワでロシアの統治に対する武装蜂起が勃発するが、結局革命は失敗に終わり、故郷は再びロシアの手に落ちたことを異国で知ることになる。

この悲報で、ショパンは激しい錯乱状態に陥り、神を呪い、帰るべき場所を奪ったロシアを憎み、闘いを放棄した自責の念に苦しむ日々を送り、その様子が当時の彼の日記に綴られている。

牛田さんの祈るような表情、魂を込めたタッチにショパンの姿を見たのは私だけではないだろう。

 

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昨年開催されたショパンコンクールの一次予選での演奏。

二人の日本人がファイナリストになり、他にも三人が3次予選に進み、日本人の活躍は目覚ましかったが、その中で一番コンサートでお聴きしたいと感じたのは二次予選で敗退した牛田さんだった。

悲報を受けた頃に作曲された『革命』(9:00~) は祖国を思う慟哭のように聴こえる。

 

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ショパンコンクールに関する記事もいろいろと読んだが、このインタビュが一番納得でき、腑に落ちた。

ショパンコンクールと聞けば何か崇高なイメージがあるが、商業イベントであることは否定できないし、オリンピックの採点競技も然りである。

ある審査員は、インターネットなどにより時代が変わってきたことによって、以前の確固としたものから変化を受け入れ、ショパンらしいとされた演奏とは違う解釈を聴けるようになり、審査員も幅広いスタイルを受け入れるようになったという発言をされていて、ショパンにトレンドがあるのか?と疑問を感じた。

核心をついた素晴らしいインタビュー記事なので、ぜひご一読いただきたい。

  

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アンコールの2曲目を演奏されたあと、『葬送行進曲』についての説明があった。

ただ死を悼むだけでなく、B♭(birth) と D♭(death) の音が繰り返えされていて、最期は生きることを選択する構成になっているとのこと。

感情が抑えきれないのか、その声は少し震えているようだった。

楽家としてはポリティカルな発言は控えたいということであったが、その思いは演奏で十分に伝わってきて、根こそぎ持って行かれた。

そして、愛知県芸術文化劇場の前にある、中部電力MIRAI TOWER (旧テレビ塔) と オアシス21の水の宇宙船が、ウクライナの国旗と同じ青と黄色にライトアップされていた。

 

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翌日、少し前に伺った『名曲喫茶ニーベルング』に行くと、「この前きてくれたよね」と、マスター。

覚えていてくれていた。

 

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相変わらず入口のカーテンは半開きで、看板の電気は暗くなれば点けるのかな。

 

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前回はスピーカーに背を向けて座ったので気付かなかったが、スピーカーに向かって座ると半開きのカーテンの理由がレコードラックを隠すためだと分かった。

 

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マスターに牛田さんのコンサートの様子を報告をし『葬送行進曲』をリクエストした。

 

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正確には『ショパン ピアノ・ソナタ 第2番 《葬送》変ロ短調 作品35』。

第三楽章が有名な『葬送行進曲』(12:23~)。

出だしと終わりの暗く重いフレーズは誰しも知るところだが、中間部の美しいメロディはコンサートに足を運ぶまでは知らなかった。

マスター「アルトゥール・ルービンシュタイン」覚えました。

牛田さんを追って行きたいので、またいろいろと教えてください。