2022.8.6. 名古屋シテマテーク 『教育と愛国』
舞台挨拶 大阪府公立中学校教諭 平井美津子さん
「日本人というアイデンティティを備えた国民を作る」
予告編の冒頭にある安倍元首相の言葉に虫唾が走り、これは絶対に観るべき作品であると思い、先週刈谷日劇に足を運んだのだが、観るべき作品であることに加え、伝えなければならない作品でもあった。
そんな折、名古屋シネマテークでアンコール上映があることを知り、しかも出演者の平井美津子教諭と斉加尚代監督の舞台挨拶があるということで、平井先生の授業は聞き逃せない。
鑑賞した8月6日は77年前に広島に原爆が投下された日であったが、被爆国として2度と同じ悲劇を繰り返さないためにもその事実を語り継ぐことは大切であり、それと同様に従軍慰安婦問題など日本が加害者である部分もしっかりと学ぶ必要があると思うのだが、安倍氏が推していた新しい歴史教科書をつくる会は従来の教科書を「自虐史観に基づくもので日本を貶める」と批判して慰安婦の記述を削除すべきと主張した。
そして、その教科書の中に憲法改正の手続きが詳細に書かれていたのには驚いた。
平井先生は教科書に沿って、戦時中に日本が占領したアジアの人びとについて語られる中で従軍慰安婦も取り上げて、その授業は実践的と地方紙に掲載されるほど注目された。
世界の性暴力や女性差別問題を生徒に教育するのは賛成だ。しかし、慰安婦問題を扱うこの教諭は、先の国会で河野外務大臣が「史実に反する」と答弁した事実は生徒に伝えてるんだろうか。歴史学者の反対の立場を生徒に伝えてるんだろうか。公立公務員の教員の授業だ。新文科大臣はこの現状を知ってくれ。 https://t.co/ruGK5KiuxN
— 吉村洋文(大阪府知事) (@hiroyoshimura) 2018年10月10日
それに嚙みついた吉村大阪府知事のツイート。
これを受けた学校側は平井先生に対して二度と慰安婦の授業をしないように言ったが、大阪府教育委員会の調査で、これまでの授業は適切だった、と結論づけられた。
授業を聞いていないのにもかかわらず、知事が授業の内容に関しての個人攻撃とは、明らかな教育への政治介入であり、あってはならないことである。
南山中学校での研究集会で名古屋に来られていた絶妙なタイミングでのアンコール上映ということで登壇された平井先生。
慰安婦が教科書に取り上げられたのは1997年からで、そのきっかけは1993年の河野談話で日本政府が公式に認めて謝罪と反省を表明したことであるのは周知されているところである。
安倍前首相による教育基本法の改悪により、国を愛する心が入れ込まれて、道徳が教科化されることについて、生徒から「戦争が終わって教育勅語がなくなったのにまた国を愛する心を押し付けるの?」と不安の声が上がったそうだ。
道徳が教科化された問題点として、教科書ができたことと成績をつけることになったことを挙げられ、子供たちの心を評価することはできないと抵抗されたとのこと。
教科書に沿った価値観を是としなければ成績が上がらないとなれば、まさにマインドコントロールであり、何処かのいかがわしい宗教となんら変わりない。
現在どうされているのか気になったが、心の評価はせず、深く学んでいるかなど客観的に言えることで成績をつけているそうだ。
子供たちは発展途上なので悪さをすることもあるが、その時の事情や精神状態を考えずにその行為だけで教科書通りにいい子と悪い子の判断をするのはレッテル貼りになるというお話に、平井先生から教えてもらっている生徒さんたちは恵まれていると思った。
さて、ここで問題です。
「おじぎ」を教える小学二年道徳の教科書 (教育出版) より、れいぎ正しいあいさつはどのあいさつでしょうか。
一、「おはようございます。」といいながらおじぎをする。
二、「おはようございます。」といったあとでおじぎをする。
三、 おじぎのあと「おはようございます。」という。
正解は映画をご覧ください。
因みに私は間違えたので、改めます。
って、誰がこんなこと決めたんじゃい、あほかー。
平井先生の著書『教科書と「慰安婦」の問題』にサインをいただきた時「一番前で熱心に聞いてくださってありがとう」と気さくな大阪弁と笑顔でお声がけしていただいた。
さすが、いつも授業で生徒の様子を見られているだけあって、舞台挨拶をしながら客席の様子もしっかりと観察されていた。
南山中学校で特別授業をされたそうで、それを受けた生徒さん達からの感想を読まれた際に泣きそうになって上を向いて涙を堪えたり、前のめりになったりと、確かに熱心に聞かさせていただいた。
平井先生、すばらしい授業をありがとうございました。
その笑顔はスクリーンの中の厳しい表情とは違ってとてもチャーミングで、笑いながら話すようなインタビューでなかったことはもちろんだが、学校側と教育委員会から教室を使う許可を得られず、真夏の暑い中で外での撮影になったことも厳しい表情となった要因なのかもしれない。
舞台挨拶では大阪の子供の貧困についても語られていて、
あなたの子供たちを良い人生に導きたまえ
彼らに平和と保護と食物を与えたまえ
朝に光を そして 夜に明かりを与えたまえ
もし物事が誤った方向に進んだのなら
どうか正しい方向へと導きたまえ
とポール・マッカトニーが歌う『Deliver Your Children』(邦題『子供に光を』) を贈ります。
アンコール上映は8月19日(金)までで、10日(水)には斉加尚代監督の舞台挨拶があるので、是非。