2022.08.27 Caballero Club
tryphonic 山田貴子(pf) 小美濃悠太(ba) 斉藤良(dr)
Morphine Desert -trio acoustic- での小美濃さんのライブパフォーマンスに魅了されて Caballero Club に足を運んだ。
Morphine Desert では全曲ともリーダーである北川とわさんのオリジナルで、とわさんが描いた世界観を表現すべくプレーヤーに専念されていたが、この夜の tryphonic は3人がリーダーとしての一翼を担うスタイルで、絶妙なバランスによって生まれた音は個性と魅力に溢れていた。。
アルバムの3曲目に収録されている『A Thrown Ball』は小美濃さんのオリジナルで、「賽は投げられた」的な意味にも捉えられそうなタイトルだが、5分ほどで書き上げたメロディをあとはよろしくといった感じで「丸投げ」したことからのタイトルとのこと。
その丸投げしたボールをラケットとバットと足で打ちあうような演奏は壮絶なカッコ良さ。
2ndステージのラストの貴子さんのオリジナルはコロナ禍で創作意欲がまったく無くなり投げ出したままの曲を少し前に書き上げたという新曲。
前半の色彩豊かなドラムは荒れ狂いうねる波を奏でているようで、丸投げとは違うがドラミングにゆだねる部分が大きく、後半はそのドラムとピアノが力強く絡み、ドラマチックで壮大なストーリー。
アルバムの2曲目で良さんの唯一のオリジナル『Cala Rossa』はご本人曰く「ふたりに助けてもらった」とのことで、そのふたりは五線譜に書かれた音符を読むのでなく解読されたそうだ。
五線譜に慣れ親しんでいないドラマーが自分の意図することをそれに落とし込むという作業は大変であることは想像に難くないが、もしかしたら良さんが意図した以上に良い作品に仕上がっていたのかも。
どの曲もこのトリオだからこそと言える。
アルバム『Fiction』の季節感のないジャケットは、ブラジル・日本・北欧、三者三様のルーツの違う音が混じり合うことで新たな物語を創造するという意味であろうし、アルバムタイトルでもある小美濃さんのオリジナル『Fiction』の美しく切ない旋律と感情を揺さぶるリズムはアンデルセン童話を想起させ、その童話の主人公達のようにも見える。
初めてお聴きした貴子さんのピアノは、様々な感情表現が豊かに奏でられ、高度なテクニックだがそれが邪魔になっておらず、曲に込められた想いがダイレクトに伝わってくる魅力的な音色だった。
笑顔が絶えない天然キャラといった印象で、それが作られたものではなく自然に湧いて出ていて、人間性が音に現れているのだろうと思っていると、Facebookでお父さんの誕生日の様子を投稿されていているのを拝見して納得した。
30年近くパーキンソン病を患っている父の誕生日を祝う娘と母、そのトリオのやり取りと大爆笑に、こりゃ大抵のアーティストは勝たんわと思った。
良さんをお聴きしたのも初めてだが、ありとあらゆるところを叩いていて、情景が浮かぶカラフルでリズミカルなドラムをお聴かせいただいた。
割れているシンバルは60年物らしく、ボロ過ぎてもらった日に割れてしまったそうだが、日々ヒビが増えて響かなくなったのを利用してそれが味になったり、しなるような物で叩かれている曲があったので、どういうアイテムかお聞きしたところ、壁に鎖が刺さっていたので衝動的に引っこ抜いて使ったらまったく音がでなかったのでびっくりしたとのことで大爆笑になり、自由な発想もブラジル的なのか。
音楽のルーツは三者三様だが、サインにはそれぞれ謎のキャラクターが書かれていて、そのどれもが楽し気で、たぶんその一致が大切なのだろう。