necojazz’s diary

ジャズを中心に雑食

とら男

 

2022.9.3 名古屋シネマテーク 『とら男』

舞台挨拶 村山和也監督 西村虎男さん 加藤才紀子さん 長澤唯史さん

 

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1992年に金沢市にあるスイミングクラブの女性コーチ安實千穂さん(当時20歳)の遺体が勤め先の駐車場に停めた本人の車の中から発見されるという事件が発生したが、犯人逮捕に至らぬまま2007年に時効を迎えた。

 

 

その実際に起きた未解決事件を追った作品で、そのような作品はいろいろとあるが、他の作品と一線を画すと言える見どころのひとつは、事件を担当した刑事である西村虎男さんが主演されていることである。

石川県出身の村山監督が子供の頃に遊んでいた公園が犯行現場の近くだったことよりずっと事件に興味を持たれていたそうで、虎男さんの著書『千穂ちゃんごめん!』を読んで直接お話を伺って映画化を決められたそうだ。

虎男さんの他にも事件を証言する人々やホテルの従業員など、地元の方が多く出演されており、ドキュメンタリータッチで事件の核心部分に触れていくリアル感はザラザラした本物の手触り。

 

 

メタセコイアは「生きた化石」と呼ばれる事件のカギを握る植物で「化石のような事件」とダブルミーニングになっていて、法的には時効になっても事件はまだ生きている。

加藤才紀子さん演じるかや子がメタセコイアを卒論のテーマとして選んだのだが、すでに研究し尽くされていて「もう終わったことだから」と先生から言われてもそれを求めて向かった金沢でとら男と出会い、あきらめない執念のようなものはとら男に通じる。

劇中でとら男との捜査会議や聞き取りなどで丹念にメモを取っているのだが、その調査日誌がパンフレットになっていて、その中にある似顔絵や植物のスケッチはご自身が描かれており、よくぞここまで調査されたといった充実の内容で、かや子の成長がストーリーのもう一つの柱となっている。

 

 

数日前に阿部寛さん主演の「異動辞令は音楽隊!」を鑑賞したが、阿部さん演じるある事件を追っていた鬼刑事と同様に虎男さんも捜査から外されたそうで、クライマックスで見せた鋭い眼光は阿部さんにも負けない演技で、いやおそらく自身が真犯人だと考えるその人物を睨んでいた本物の目なのだろう。

まったくの素人を主演に大抜擢した村山監督の目も本物である。

 

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村山監督は中年の織物職人が地下アイドルにハマっていく短編作品『墜ちる』を鑑賞していて長編作品を楽しみにしていたが、初の劇場用長編映画でかなり難しいテーマに取り組まれている姿勢に凄みさえ感じ、驚きを持って鑑賞させていただいた。

ラストの映像はたまたま偶然に撮ることができたそうで、すべてのタイミングと状況が合致した監督の執念が生んだ名場面である。