2024.5.18 イオンシネマ長久手 白石和彌監督 『碁盤斬り』
囲碁を題材にした古典落語『柳田格之進』を脚色し映画化した作品だが、江戸時代の武士を描くならば王将、桂馬、歩など駒それぞれに役割がある将棋の方がしっくりくるように思えるが『将棋盤斬り』では如何にも語呂が悪い。
という訳ではなく、白と黒しかない碁石がメタファーになっていて、それは勧善懲悪の善と悪ではなく、己と相手があるだけ。
濱口竜介監督のタイトルをお借りするならば争い事は双方に正義を主張するので『悪は存在しない』。
映画の中でも草彅剛さん演じる柳田格之進はお家のため忠義を尽くして己の役目を果たすのだが、それによって藩を追われて苦しい生活に陥る者からすれば恨めしい存在であり、格之進はこれまでの生き方は正しかったのか?と自分に問う。
草彅さんには見えないパンフレットの横顔には殺気が漂う。
あらぬ嫌疑をかけられたことにより無実を訴えるより生き恥は晒したくないと切腹しようとするが、一人娘お絹(清原果耶さん)の義を受け止めてからの形相は別人。
斎藤工さん演じる仇役の柴田兵庫にも己の義があり、遊廓の大女将(小泉今日子さん)も商人の大旦那(國村隼さん)なども然り。
それぞれ己の義理を通す生き様は碁盤義理でもある。
碁会所の親分として市村正親さんが登場したときは思わず『THE HOTEL VENUS』のホテルの主人ビーナスを思い出して、当時聴きまくったサントラを流しながら書いているところ。
草彅さんはこの頃から良い俳優だと思っていたが、年を重ねるごとに凄みも増してきて、押しも押されもせぬ存在になったと言える。
ホラーとグロいのは苦手なので白石和彌監督作品は『ひとよ』から久しぶりの鑑賞だったが、R指定ではなかったので安心して鑑賞でき、殺陣のシーンもリアルさを求めながらもグロさはなく、逆に白石ファンにはその辺りが物足りないかもだが、多くの人にオススメできる。
さすが古典落語と思わせる義理人情のラストシーンに劇場を出るときはピンと背筋が伸びていた。
日本人が忘れかけている日本人の心。
情けは人の為ならず。