necojazz’s diary

ジャズを中心に雑食

ファンシー

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2021.3.20 刈谷日劇 廣田正興監督 『ファンシー』

永瀬正敏特集 8/9

 

ある地方の温泉街に、一日中サングラスをかけている鷹巣明(永瀬正敏)というニヒルな男が住んでいた。失踪した父親、竜男(宇崎竜童)の後を継いで彫師となり、昼は郵便配達屋もこなしている鷹巣日課は、町外れの白い家に引きこもって暮らす若い詩人(窪田正孝)にファンレターを届けること。その詩人は“南十字星ペンギン”というペンネームで月刊ファンシーポエムという雑誌に寄稿し、女子学生の絶大な支持を得ている。見かけからしてペンギン似の詩人は、いつもレトロな空調で室内をキンキンに冷やし、氷風呂に身を浸すという生態までペンギンのよう。そんなペンギンの浮世離れした日常を不思議がる鷹巣だったが、はみ出し者同士のふたりは奇妙な友情で結ばれていた。

そもそもこの温泉街は風変わりな連中の溜まり場だった。鷹巣の勤務先の郵便局長で、風俗嬢を斡旋する射的屋でもある田中(田口トモロヲ)。鷹巣の後輩で、グチばかりこぼしているヤクザ組長二代目の国広(長谷川朝晴)。事あるごとにお墓を売りつけようとする住職の篠田(外波山文明)。鷹巣のもとに刺青を入れにやってくる裏社会の男、新田(深水元喜)。この時代の流れに取り残されたような寂れた町で、それぞれがあてどもない日々を生きていた。

ある日、いつものようにペンギンの家を訪ねた鷹巣は、人付き合いが極度に苦手なペンギンが月夜の星(小西桜子)と称するファンと文通を交わしていることを知る。しかし、今回届いた手紙の文面はいつもと違っていた。「私は先生の妻になりたいのです。どうか私をいっしょう先生のおそばにおいてください」。会ったこともない女子からの思いがけない熱烈な求愛にペンギンは驚き、鷹巣は「アブねえ女だな。おまけに絶対ブサイク」とつぶやく。

すると後日、月夜の星がペンギンのもとに押しかけてくる。ブサイクという鷹巣の見立てとは大違いで、清楚で可憐なメガネ女子である月夜の星は、強引にペンギン宅に住みつき、料理、風呂、洗濯などの身のまわりの世話を始める。すっかり奥様気取りの月夜の星をサングラスの下の冷めた目で見つめていた鷹巣は、彼女にずけずけ質問を投げかけ、ペンギンが性的不能である事実を告げるのだった。

やがてペンギンのもとに月刊ファンシーポエム編集部から懇親パーティーの招待状が届き、鷹巣は代理として出席する月夜の星のエスコートを頼まれる。ところがパーティーの最中、鷹巣の真意不明の言動に心かき乱されていた月夜の星は、ワインをがぶ飲みして泥酔してしまう。悪態をつかれた鷹巣がその場で突然唇を奪うと、我を見失ったように身を委ねる月夜の星。そのままホテルになだれ込んだふたりは、欲望に駆られるままに体を重ね合う。

その頃、温泉街にも不穏な変化が巻き起こっていた。ヤクザのドンを狙撃してこの町に潜伏していた新田が追っ手に殺害されるなど、血生臭い事件が続発。夢見る少女から妖艶な女へと変貌を遂げた月夜の星は、自ら鷹巣を誘惑するようになる。一方、月夜の星に惹かれながらも彼女を抱けないペンギンは、答えの見つからないジレンマにもがき苦しんでいた。

そして鷹巣と月夜の星が激しい情事に身を焦がしている最中、ふたりの関係を察したペンギンは、体質的に耐えがたい太陽光が照りつける外界へ飛び出していく。ロマンティックな夢と苦く切ない現実の狭間で、どうしようもなく狂おしく溺れ続ける3人はどこへ漂着するのか……。

(公式サイトより)

 

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原作は山本直樹氏の同名コミック。

未読で鑑賞したが、帰ってからダウンロードして読まさせていただいた。

40ページちょっとの短編で、主人公はの詩人は人間ではなくペンギンであった。

映画では窪田さんが人間としてペンギンを演じ、ペンギンにファンレターを届ける郵便屋の永瀬さんが主役となって彼を取り巻く人々が新たに描かれていた。

小説を映画化するよりコミックはコスプレ大会に陥りがちだが、廣田監督は見事にご自分の世界に落とし込んでいた。

さびれた温泉街とやくざ、バイオレンスにポルノ。

原作にはないアンダーグラウンドな昭和の香りがする哲学的な寓話。

 

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上映後に廣田監督、『君がいる、いた、そんな時。』の迫田監督と堀部支配人とのソーシャルディスタンストークがあった。

時期を同じにデビュー作を公開された迫田監督からの「デビュー作は絶対にこれを撮りたいということがあると思いますが、どの部分ですか?」との質問に「40歳を超えてからの企画だったので、やりたいことが見えづらくなっているときにやってなかったことが撮りたいことだった」と廣田監督。

20代の頃に永瀬さんにこれを撮りたいと話されたのが『ファンシー』だったとのこと。

 

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永瀬さんの父親で彫師役の宇崎竜童さんとは、とある映画のメーキングをやっているときに疲れてうなだれているところ「どうした」と声をかけていただいたそうだ。

「メーキングばかりで映画を撮りたいんですけど」と、ぐだぐだとした話を聞いていただいたあとに掛けていただいた宇崎さんの一言に心が動いたとのこと。

私も鑑賞中、その言葉にドキリと心臓が反応した。

リアルに心が動いた言葉を、十数年の年月を経て、スクリーンの中で宇崎さんご本人に言ってもらうという舞台裏も大人のファンタジー

その一言はぜひ劇場でご確認を。