
2025.9.21 シアターカフェ
『Mothers』
舞台挨拶『BUG』監督・脚本 武田恒
『夜想』監督・脚本 高橋郁子
『いつか、母を捨てる』監督 木内麻由美・脚本 進藤きい
『だめだし』監督 野田麗未・脚本 たかはC
『ルカノパンタシア』監督・脚本 難波望
Mother をテーマにした5つの短編映画からなるオムニバス作品。
おととし観たオムニバス作品『おっさんずぶるーす』はワーク編とファミリー編どちらもおっさんというテーマからコメディに偏っていたが、本作はシリアス、ワンシチュエーション、ホラー、コメディ、ファンタジー、5作5様で脚本家にスポットを当てているのも良かった。
確かに出演者や監督に目が行きがちで、この脚本家だから観ようという視点はあまりなかったが、脚本の重要性を再認識するためにも重要な作品である。

パンフレットの脚本家5人による座談会は必読で、他にも音楽・撮影・題字・編集など様々なプロフェッショナルが紹介されている。

名古屋出身でシアターカフェのある白壁は生活圏内だったという東京在住の武田監督。
予期せぬ状況『BUG』に陥った母は無差別傷害事件を起こした息子とどう向き合うのか?
わからないものに向き合うという答えのないような問いかけは人生そのもの。
悲しみや寂しさを感じる青の世界を幻想的に描いた『夜想』は清らかさと信頼を感じる青であり、海よりも深い子どもへの愛の碧でもあった。
観たことのない作品に出会えるのはうれしい。
娘のためだと信じて疑わない『いつか、母を捨てる』の母は愛する娘を支配するが、自分が毒親であるという自覚はないだろう。
屈折した愛情による毒は逃げ場がなく追いつめられ、まじ怖かった。
『だめだし』は、娘を介して映像ディレクターである夫へのスマホ撮影に対するだめだしが的を射ており、夫が子どもようで笑えた。
夫役の人はいい役者さんだと思ったが、服を着ていたのでアキラ100%さんだと気付かなかった。
路佳の空想だから『ルカノパンタシア』。
受け入れられない現実を先送りする中で、空想は現実逃避ではなく娘を強く愛する証し。
目に見えている世界がすべてではない。

2025.9.26 シネマスコーレ
『はらむひとびと』 監督 中嶋駿介・脚本 富安美尋
以前にシアターカフェで鑑賞した『あのこを忘れて』での忘れられない演技にフォローしていた相馬有紀実さんが企画・主演ということで楽しみにしていた作品だが、舞台挨拶に伺えなくて残念。
育児ノイローゼの専業主婦と望まない妊娠をしたエリート会社員。
ふたりの母親を中心に家族のあり方や社会との関係性を描いており、こちらも Mothers と言える。
炎天下での幼児車内置き去り事件をモチーフにしていて、これは誰にでも起こり得る事件であり、実生活でも母になられた相馬さんの出産・育児に悩むひとびとや事件に対する思いに温もりがじんわりと伝わってくる。

育児に限らずコップの水が溢れかけているすべてのひとびとに響く作品であり、テーマ的に女性の方が興味を持たれると思うが、世の男性にこそ観ていただきたい作品。
相馬さんの演技はやはり凄かった。
同時上映『empty』 監督・脚本 中嶋駿介
『はらむひとびと』で初長編作品を撮られた中嶋監督の短編作品。
『はらむひとびと』の瀬戸かおりさん主演で、『ルカノパンタシア』の森山みつきさんも出演されている。
母になることを望むもその願いを絶たれた空虚な日々と寒々とした風景。
心象世界の中で表現される圧倒的な孤独とわずかな希望。
虚無感はそこから抜け出そうとするエネルギーを生み出す切っ掛けにもなる。