necojazz’s diary

ジャズを中心に雑食

『愛のこむらがえり』 『ぼくたちの哲学教室』

 

『愛のこむらがえり』 刈谷日劇

舞台挨拶登壇者 磯山さやかさん 吉橋航也さん 高橋正弥監督

 

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映画製作の舞台裏を撮った名作は数々あるが、一大ブームとなった上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』もその一つで、しゅはまはるみさんのキャスティングやオマージュシーンなど『カメ止め』へのリスペクトや、オリジナルの脚本への拘りも感じるストーリーに、邦画の原作至上主義に対するアンチテーゼも伺え、ハートフルコメディの中に一本筋の通った良い作品であった。

 

 

5本の指に入る映画監督を挙げるシーンで最初に是枝裕和監督の名前が出たのもその表れだろう。

原作ありきで小説や漫画を映画化するのを否定はしないが、安易な方向性よりも考えて考えて考え抜いた妥協のない『怪物』のようなオリジナルを観たい。

映画音楽としては遺作となった坂本龍一さんのサントラも白眉である。

緻密で重厚感のある圧倒的な筆力で映像化には不向きと思える高村薫さんの小説も何本か映画化されているが『マークスの山』の薄っぺらさと軽さはどうしようもない駄作だったし、『レディー・ジョーカー』に至っては映画化が決まったときに2時間にまとめるのは無茶だろうと映画会社やスポンサーの頭の中を疑った。

結果は案の定で、仕事とはいえ無理難題を言われる監督と脚本家も災難である。

 

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それでも原作至上主義は続く。

 

 

創造的な仕事をするための三つの条件として「若いこと、貧乏であること、無名であること」という毛沢東の言葉を引用していたが、ロックミュージシャンの30代は若いと言えなくても、映画監督の30代は十分に若手だし、映画監督で「若いこと」とは、実年齢よりも脳年齢のように思う。

 

 

パンフレットを見て、磯山さやかさんとW主演をされた吉橋航也さんのプロフィールが気になった。

東京大学法学部をご卒業されて、29歳で劇団東京乾電池に所属となっているが、劇中の浩平と同様に衝撃的な作品との出会いがあったのだろうか?

羨ましい生き方である。

 

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8月5日よりシアターカフェにて『シアターカフェ移転&リニューアルオープン3周年記念開放祭』の上映会がある。

貧乏なのかは知らないが、無名で若い感性を持った監督達による創造的な作品がドリンク代で鑑賞できるので是非。

 

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『愛のこむらがえり』の前に鑑賞した『ぼくたちの哲学教室』。

高村薫さんのアメリカのCIA、イギリスのMI5・MI6、テロ組織のIRA、日本の公安を巻き込んだ壮大なスケールのスパイ小説『リヴィエラを撃て』の舞台にもなっている北アイルランドの首都ベスファルトにあるカトリック系の小学校で行われている哲学の授業にカメラを入れたドキュメンタリー。

 

 

連合王国としてのイギリスに属する北アイルランドと、そこから分離独立したアイルランド共和国では、かつてプロテスタントカトリックの間に激しい武力闘争が起こり、多くの命が失われた。

「やられたらやり返せ」という暴力の連鎖を止めるためには、フェイクニュースや対立を煽る情報を鵜呑みにせず自己判断をしなければならないが、考えて考えて答えをだす習慣を身につけるためにも、こどもの頃から哲学に触れることは大切である。

哲学の授業には教科書などなく、「他人に怒りをぶつけてもよいか?」などの問いに、校長からボールを受け取ったら意見を言い、出し合った意見をボードに書いて再評価する。

「どんな意見にも意味がある」「考え方の違いを尊重しよう」という主旨である。

 

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昨年鑑賞した『教育と愛国』。

日本の道徳の授業は教科書に沿って国が用意した答えを正解として、こどもの考える機会を奪っている。

 

 

刈谷日劇の前に名古屋シテマテークでも鑑賞していたが、満員御礼の札止めだった。

この作品の人気もあるが7月28日をもって閉館するため、それを惜しむ方も居られただろう。

名古屋のミニシアターの老舗は、名古屋シテマテーク、名演小劇場、シネマスコーレ、の3店舗あって、それぞれ上映する作品に傾向があってバランス良く住み分けられていたが、今年3月の名演小劇場の休館に続いて名古屋シテマテークが閉館するとシネマスコーレのみとなる。

名古屋シネマテークでは社会派ドキュメンタリーやヨーロッパを中心に他では観られないさまざまな国々の映画がラインナップに並んでいたが、それらの映画を名古屋で観る機会はほぼ無くなってしまう。

この現象は名古屋に限ったことではなく全国的な問題であり、『愛のこむらがえり』で描かれているような若手監督の上映の場が無くなっていくことは映画業界全体の衰退にも繋がっていく。