necojazz’s diary

ジャズを中心に雑食

フジヤマコットントン

 

2024.4.7 ナゴヤキネマ・ノイ

青柳拓 監督 『フジヤマコットントン』

 


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富士山が見える障害者福祉サービス事業所「みらいファーム」での何気ない日常。

蒔いた種から綿花が育ち、繭が膨らんだら積んで、干してから紡ぎ糸にし、それを織って織物が生まれる。

この工程が愛おしく、「みらいファーム」で働く人々が愛おしく、幸せの花が咲く。

 

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青柳拓監督は2021年のマイベストテン10位にさせていただいた『東京自転車節』での溢れ出るバイタリティーに圧倒されて、今回も前面に出られるのかとおもいきや、いい意味で裏切られた。

 

 

上映後の舞台挨拶で映画を撮るきっかけを語られた。

2016年に起きた相模原障害者施設殺傷事件での植松死刑囚の「生産性のない障害者には生きる価値がない」という主張がSNSなどでじわりと広がっている状況に違和感と異論を持ったことがきっかけのひとつになったそうで、でも同じ土俵に上がらないというスタンスで、社会的メッセージは抜きにして撮影ができたとのこと。

そして「みらいファーム」で働く人々の言葉は主張するメッセージではないが、無意識で自然に紡ぎ出される言葉はどんな詩人にも書けない別の領域での詩であった。

 

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『PERFECT DAYS』や『PATERSON』のような何気ない日常を綴った作品が好みのジャンルであることは以前にも書いたが、この作品も個人的どストライク。

監督はどれだけカメラを回し、編集にどれだけの時間を掛けられたのだろう。

撮りためた映像を95分にまとめる作業は大変だっただろうと想像し、飽きるどころかいつまでも観つづけられる。

 


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もうひとつ、このドキュメンタリーが傑出しているのは誰もカメラを意識していないところ。

パンフレットにあった試写会を観た一人のメンバーの「いつものファームじゃん。ふつうじゃん」という言葉がすべてを物語っている。

これは伊勢真一監督の『やさしくなあに〜奈緒ちゃんと家族の35年〜』などの『奈緒ちゃん』シリーズと重なるところがあり、奈緒ちゃんは伊勢監督の姪にあたるからこその傑作であった。

青柳監督はどうやって被写体との関係性を築かれたのかと思ったが、お母さんが「みらいファーム」の職員で小さい頃から遊びに行っていたそうで、映画に出演されていたみなさんはお兄さんやお姉さん的存在とのこと。

その間柄があったこその傑作だと納得した。

 


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青柳監督の次回作は水道橋博士参議院選挙の様子を追ったドキュメンタリーとのこと。

その題材を聞いただけで絶対に面白そうでとても楽しみだが、伊勢監督の奈緒ちゃんシリーズの新作『大好き~奈緒ちゃんとお母さんの50年~』も近々公開され、こちらも楽しみ。

カウントダウンムービーだけで泣いちまった。

これを観ても植松死刑囚は「生産性のない障害者は生きる価値がない」と言うのだろうか。

 

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サインをいただく際に久遠チョコレートをお渡しすると、「おっ、久遠チョコレートだ。そういえばこの辺ですよね。」と、『チョコレートな人々』も勿論ご覧になられていた。

障がいを持っている方などに我々ができる一つとして消費行動を考えること。

以前に自転車で琵琶湖一周としたときに次は富士山一周だと思ったが未だ回っておらず、今年のGWくらいに回りたいと思うが、その際には「みらいファーム」にも寄ってコットントンしたものを購入したい。

 

 

向かって左のめぐさんはおっとりしていて丁寧な仕事ぶりで、右のゆかさんは明るくテキパキと仕事をこなし、どちらも織り担当。

「みらいファーム」のみなさんはそれぞれに個性的。

この笑顔には役所広司さんの演技も敵わないだろう。