2023.9.7 MOVIX 三好
チョン・ジュリ監督 『あしたの少女』
原題の直訳は『次のソヒ』。
卒業間近の女子高生ソヒが、現場実習生という肩書で働いていたコールセンターでの過酷な労働や賃金の搾取、取り巻く環境などに押しつぶされ、冷たい冬の貯水池に身を沈め自死する。
現場実習生という言葉の響きからは想像できない人権を無視した企業の消耗品の一つでしかないような扱いに唖然とするしかなかった。
物語の前半ではたった18歳で自死したソヒの苦悩と孤独を描き、後半はなぜ彼女が死を選んだのかを複雑な事情を抱えた刑事ユジンが事件の真相を追うという前半と後半で主人公が交代する形をとっていて、その二人がある重要な場所で少しだけ交わり、鮮烈なラストシーンへと繋がっていく。
2017年に起きた実際の事件を題材にしており、原題には同じような悲劇を起こさないようにという願いが込められていて、日本でもこのところビッグモーターやジャニーズ事務所など、内部告発によって企業の闇が明るみに出てきているが、ひとつの企業だけでなく様々に絡み合った韓国社会の漆黒の闇をあぶりだしている。
チョン・ジュリ監督も映画の企画を持ち込まれるまで事件のことを知らなかったそうで、事件当時は深い闇の圧力もあって大きな社会問題にはならなかったみたいだが、この作品が切っ掛けとなって現場実習生の人権が守られるように法改正が行われ、通称「次のソヒ防止法」と呼ばれている。
ラストシーンでは「次のソヒ」を絶対に出してはならないというメッセージをどれだけ言葉を並べるよりも映像により雄弁で鮮烈に表現し、映画の存在意義を感じた。
