2023.3.23 刈谷日劇 『GINAGINA ぎなぎな』
登壇者 高川裕也さん (監督・脚本・主演)
主人公の木村誠は還暦を前にしたコロナ禍で、自ら企画した映画のメガホンをとるが、主演のケガにより撮影は中断する。
制作費が嵩み金策に苦労する中、故郷の四日市での同窓会で久しぶりに会ったクラスのマドンナだった雪乃から「お金都合しようか、それか帰ってこない(ウチの製麺所で働かない)」と提案される。
この提案をした理由となる言葉が作品の肝であり、その意味合いは人によって受け取り方が違ってくるだろう。
その言葉はぜひ映画館で。
木村と同世代で、今年の7月に還暦を迎える身としては、これからの人生の向き合い方について考えさせられた。
この夜、フジテレビの夜土曜プレミアム『容疑者Xの献身』を観ながら、16年前の作品で16年後は75歳かと、砂を噛むようなことを考えていた。
ちょっと前に観た感覚だが、これから16年はもっと早いだろうなと、自分に残された時間の少なさを改めて感じざるを得ない。
今さらながら、やりたいと思ったときにやらないと人生はあっという間に終わってしまう。
映画制作の話と並行して、妊娠してひとりで子供を育てることを告げられる離婚間近の娘(アサミ)との話が進行していくのだが、映画にはには名前しか登場しないアサミの夫(サトシ)との短い小説『アサミとサトシ』を舞台挨拶で朗読された。
公園での父と娘のシーンで、野外劇場の席を立ったアサミが無音で階段を上っていき、立ち止まる瞬間の足音だけ「ザザッ」と聞こえたのが印象的で暗転するのだが、スクリーンにはないシーンではどん底状態のサトシが階段の上に居て、アサミの表情は涙でぐちゃぐちゃだった。
サイドストーリー的な小説は他にもいくつか書かれたそうで、作品から受けた奥行きの深さに納得した。
ケガをした主演俳優にそのマネージャー、映画制作のスタッフや居酒屋を経営する後輩に同窓会で再会した雪乃とその元夫など、多くは語られないが、ちょっとした会話の端々に主人公との関係性や人間性を醸し出している演出の手腕は白眉。
そして朗読の声と語り口はそれだけでもお金が取れる匠の領域で、『カンブリア宮殿』や『サスケ』の第2ステージからのナレーションをされている一流の技を生で体験できたのは2度美味しかった。
職人が手延べ麺を作っているシーンもあった、金魚印で有名な渡辺手延製麺所の手延べひやむぎをお土産としていただき3度美味しい。
お心遣いありがとうございます。
劇中の木村と同様に、リアルでも高川さんは還暦にして初監督作品で、2歳年上の先輩が人生の道標を示してくれるのはありがたく、次回作も期待しています。
その前にもう一度劇場に足を運びます。
1週間限定上映なのでお見逃しなく。
大切なことは他人の目に成功者と映ることではなく、自分に確信をもつことである。