necojazz’s diary

ジャズを中心に雑食

『箱男』『太陽がいっぱい』 

 

2024.9.2 伏見ミリオン座 

石井岳龍監督『箱男

 


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1973年刊行された安部公房の同名小説の映画化で、小説は既読。

27年前にクランクイン直前で撮影中止になり、そのときと同じ主演永瀬正敏さん、共演佐藤浩市さんで、「永瀬さんと『箱男』をやり遂げなければ成仏できないとも思っていたんです」という言葉もパンフレットにあった石井監督の渾身作。

 

 

人間が望む最終形態は「完全な孤立」「完全な匿名性」で「一方的にお前たちを覗く」。

安倍公房はスマホという箱が生活に不可欠になった現在を見透かしていたかのようで、一度箱に入れば出られなくなるように一度スマホを手にすれば誰もが手放せなくなる。

そして箱男がノートに鉛筆を走らせるようにスマホに文字を打って他人を傷つける。

主要キャストで、永瀬正敏さんは「わたし」、佐藤浩市さんは「軍医」、浅野忠信さんは「ニセ医者」、渋川清彦さんは「ワッペン乞食」、中村優子さんは「刑事」。

看護師役の白本彩奈さんだけ「戸山葉子」という名前があるのは一方的に覗かれる対象であり、その美貌としなやかな裸体はルッキズムの象徴である。

匿名のわたしに攻撃を加えるワッペン小僧と反撃するわたしとの様相はクソリプの応酬で、本人たちは必死だが傍から見れば滑稽でしかない。

映画化の条件としてエンターテインメントにして欲しいという著者の要望通り、超難解な小説よりわかりやすくなっているもののそれでも難解であり、最後の一言には小説が書かれた昭和とは違う令和の箱男であることを感じた。

 

 

上映後に登壇した箱男、ではなくダイノジ大谷さん。

「展示品に触らないでください」とあったが、そんなにぞんざいに扱っていいのか?と思ったら、ニセモノだった。

映画にも出てきたニセ箱男であるが、どんな箱でもかぶってしまえば言いたい放題。

 

 

この難解な作品でよくトークイベントをされたと思ったら「よくわからない映画です」と冒頭の一言で会場を和ませていただいた。

サイン会の時にわたしの前の女性との会話でデビット・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』に触れていて、どこまでが現実でどこからが架空(あるいは夢)なのか?誰がどうしてどうなったのか?『オール・ザット・ジャズ』然り、確かにとそういった映画と同じ一度では味わい尽くせない作品である。

その女性は全部違う劇場で4回目の鑑賞だそうで、小説を読んで映画を観て、再読して再鑑賞してを繰り返し、だんだん見えてきたとのこと。

 

 

箱男』の帰り道にジムに寄って月に一度の体組成計測定。

筋トレ開始日から14カ月目、体重-0.3kg、筋肉量+2.1kg、体脂肪率-3.6%。

笑っちゃうほど結果にコミットしないが、自分が望む最終形態を目指してコツコツやるしかない。

 


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この日の昼の上映後に石井監督と永瀬さんの舞台挨拶があるということで有給休暇を取って楽しみにしていたが、台風10号の影響によって残念ながら中止となり、その上映回はキャンセルしてセンチュリーシネマで『太陽がいっぱい』を鑑賞。

 

 

8月18日に88歳で死去されたアラン・ドロンを偲んでの追悼上映。

私の少年時代アラン・ドロンは二枚目の代名詞で、その外見に目を奪われがちだが野望に満ちた哀愁ある演技も素晴らしかった。

心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

 

センチュリーシネマから伏見ミリオン座に向かう前にロジウラのマタハリに寄ってタイカレーをいただきながら『太陽がいっぱい』『道』『鉄道員』などをかけていただいた。

端正なルックスと吸い込まれそうな青い瞳、アラン・ドロンは多くの女性が望む最終形態である。