2023.12.25 伏見ミリオン座
戸田彬弘監督『市子』
ヴィム・ヴェンダーズ監督『PERFECT DAYS』
クリぼっちに鑑賞した二本はどちらもぼっちな映画。
『市子』はプロポーズされた翌日に失踪をせざるを得ないという自分ではどうしようもない境遇での孤独で、『PERFECT DAYS』の平山は貧しいながら生活をコントロールできる中で自ら選択した孤独。
孤独の意味が全く違うが、一人で生きていくことへの力強さを感じたのは同じ。
杉咲花さんと役所広司さんという稀代の名優が、それぞれに思いを込めた市子と平山という人物に引き出された名演を見るだけでも十分に価値のある二本は、クリぼっちにとっての最高のクリスマスプレゼントだった。
実際に起きた障がい者殺人事件をモチーフにした『月』で突き付けられた問いを、改めて問い直されているようなシーンでの月子の瞳が胸に刺さり、あの瞳は何が言いたかったのか鑑賞後も考えている。
法制度の不備を取り上げた社会派ミステリーとしては上質で凄みもあったが、市子を語る上で重要人物である月子の視点がもう少しあれば尚良かったように思う。
たまたま日本語字幕付き上映で鑑賞したおかげもあり、そのシーンでの母なつみの鼻歌と市子が他のシーンで歌う鼻歌が同じであることがわかり、あの歌は市子の中での家族の繋がりなのだろうと思いながら鑑賞。
エンドロールで小さく聞こえる会話も字幕でしっかりとわかった。
『市子』では数々の証言によるかたちで市子の過去が浮き彫りになるが、『PERFECT DAYS』では公衆トイレの清掃員になるまでの平山の過去は語られない。
ただいくつかのシーンから少し推測できて、読んでいる本からインテリジェンス高さや、運転手付きの高級車で訪れた妹とのやりとりから良家の育ちであること、家族とは疎遠で父親との確執なども伺える。
そして度々夢で見る木漏れ日の映像は穏やかな心を意味しているのか。
高級車の後部座席と清掃道具を乗せた軽自動車、傍からだと前者の方が幸せに見えるが、幸せとは主観的なものである。
「幸せな時期もあったんやで」市子の母の台詞がリフレインする。
『市子』のパンフレットには恋人の元から失踪するまでの年表が載っていて、それを読んであの鼻歌の意味が分かった。
母の「ありがとう」は、月子の気持ちでもあったのかも知れない。
それを踏まえてもう一度観たい。
『PERFECT DAYS』のパンフレットには平山が古本屋で購入して寝る前に読んでいた本が紹介されていて、パトリシア・ハイスミスを読んでから観ると、姪との会話の意味も分かるのかな。
市子の家庭ではクリスマスにケーキを食べることはなかっただろうし、平山はクリスマスケーキに何の興味もないだろう。
市子と平山にメリークリスマス。