2021.5.23 伏見ミリオン座 石井裕也監督 『茜色に焼かれる』
1組の母と息子がいる。7年前、理不尽な交通事故で夫をなくした母子。母の名前は田中良子。彼女は昔演劇に傾倒しておりお芝居が上手だ。中学生の息子・純平をひとりで育て、夫への賠償金は受け取らず、施設に入院している義父の面倒もみている。経営していたカフェはコロナ禍で破綻。花屋のバイトと夜の仕事の掛け持ちでも家計は苦しく、そのせいで息子はいじめにあっている。数年振りに会った同級生にはふられた。社会的弱者ーそれがなんだというのだ。この全てが良子の人生を熱くしていくのだからー。はたして、彼女たちが最後の最後まで絶対に手放さなかったものとは?
(公式サイトより)
愛知県は床面積が千平方メートを超える施設(百貨店、大規模商業施設、スポーツクラブ、パチンコ店など)に5月末までの緊急事態宣言期間中、生活必需品を除いて土日の休業要請を発表した。
一方で、映画館や劇場、美術館、動植物園、テーマパークなどは、感染防止策によって人の密集を避けられるとして、土日の休業要請は行わないとのこと。
なので、同じスターキャット系列でも伏見ミリオンは営業して、名古屋パルコ内にあるセンチュリーシネマは休館ということになった。
どうやら映画は生活に必需ではないらしい。
でも、東京や大阪などよりはまだマシである。
昨年の5月に緊急事態宣言中の街の様子を書いたが、1年経ってQ.O.L COFFEE のビニールカーテンは新しい生活様式として当たり前の光景となっていた。
映画はコロナ禍真っ只中で懸命に生きている名もない人たちを描いている。
良子(鷲尾真知子)の経営していたカフェは新型コロナの影響で閉店に追い込まれ、その7年前に夫の陽一(オダギリジョー)は上級国民のブレーキとアクセルの踏み間違いによって死亡し、上級国民はアルツハイマーを理由に逮捕されず、死ぬまで遺族へのお詫びの言葉は一言もなかった。
東池袋の死亡事故を題材にしているのは言うまでもない。
公式サイトのストーリーに付け足しとして、亡くなった陽一には愛人との間にできた子供がいてその子の養育費も良子が支払い、花屋のバイトはコネで入ってきた学生バイトにはじき出されるかたちでクビになり、純平をいじめる上級生達に放火をされて公営住宅も追い出され、夜の仕事と書いてあるのは濃厚接触ありのピンサロのことで、そこで唯一心を許し合える同僚のケイちゃん (片山友希) までも、、、。
ちょっと盛り過ぎのようにも思えるが、新型コロナの陽性反応が出てもまともな治療を受けられずに自宅療養中に亡くなる方もいれば、コロナ禍になってからの自殺者数だって増加している。
現実はもっと過酷とも言える。
「取り返しがつくないくらいボロボロなのに何で生きようとすんのよ」と、良子が働くピンサロの店長(永瀬正敏)は言うが、性風俗関連業者だって営業許可を取ってきちんと納税していても非合理な区別や差別により、持続化給付金、家賃支援給付金などから除外され理不尽な扱いを受けている。
生きようとする理由に明確な答えがなくても、誰かのためでもいいし、死んでいった人のためでもいいし、美しい夕焼けを見るためでもいいし、何だっていい。
映画は音楽や絵や文字と比べ発表するまでの時間と労力と金は桁違いにかかるが、これほどまでに今現在を切り取っている作品に「今作るしかないだろう」と言っているかのような石井監督をはじめとする製作に関わっているすべての方の熱量がスクリーンから伝わってきて、心焼かれた。
Q.O.L COFFEE のオーナーの嶋さんが店内から見た燃えるような茜色した夕焼けの写真をFacebookに投稿されていた。
映画では香典代や飲食代に公衆電話代などの金額がテロップで出るが、茜色の夕焼けはタダで見られる。
良い写真をありがとうございました。