necojazz’s diary

ジャズを中心に雑食

山田磨依 Piano Concert

2022.9.18 Enne_nittouren 山田磨依 Piano Concert

 

フランスの作曲家ジャン=ミシェル・ダマーズを中心としたコンサートということで、ダマーズは初めて聞く名前だし、ピアニストの山田磨依さんの演奏もお聴きしたことはないが、この知らない二人の組み合わせのコンサートが気になったのはpianohouse.mmg ピアノ調律師の三ヶ田美智子さんが主催されていたから。

これまでにアンドレ・メマーリやニタイ・ハーシュコビッツを名古屋に招聘されるなど、そのセンスと行動力は絶大に信頼していて、三ヶ田さんが薦めるなら間違いない。

 

 

ダマーズの他にはフランク・ブリッジ、アンリ・トマジの曲を演奏されたが、どなたも初めて耳にする名前ばかりで、有名な曲が1曲もないプログラム。

もちろん私の知識の浅さもあるが、ピアニストでも知らない方は多いそうで、ましてや彼らの楽曲を取り上げるピアニストは稀有であろう。

ビジネスを考えればショパンやベートーベンやバッハなどだろうが、ビジネスよりもハートが優先する。

ダマーズの曲はレコードやCDになっていなかったりYouTubeにもない曲が多く、楽譜が入手困難な曲は遺族に掛け合って手に入られたそうだ。

有名作曲家の作品は過去にいくつもの名演奏があり、それを参考にすることができるが、まったく白紙の状態からどう弾くかを模索していかなければならない。

他者の価値観に惑わされない音は生き方をも奏でているようで、端正で軽やかで時には荒々しさもあるタッチには高度な技術だけでなく強靭な意志も感じた。

 

 

ベルナルド・サセッティというポルトガル出身の大好きなジャズピアニストが居たのだが、彼の奏でる繊細で静謐な旋律はジャズとクラシックとのクロスオーバーであった。

一度ライブを聴きたかったが、残念ながら2012年に42歳という若さでこの世を去っていて、サセッティが弾くピアノのこの上ない美しさは儚さを湛え心の痛みさえも伝わってくる。

磨依さんのダマーズを聴きながらふと彼のことを思った。

ダマーズは順然たるクラシックというよりもジャズとのクロスオーバー的要素も感じられ、耽美系ジャズ好きなど多くの方に受け入れられると思う。

是非とも、クラシックファン以外の方にも聴いていただきたい作曲家である。

 

 

数年前、三ヶ田さんがベルナルド・サセッティの死後にリリースされたライブアルバムについてFacebookで投稿されていて、それに対してコメントをした覚えがある。

もし彼がご存命なら三ヶ田さんが呼ばれていたかも。

そして、今回も間違いなしだった。

24時間クラシックが聴ける専門チャンネルインターネットラジオステーションOTTAVA (オッターヴァ)で、磨依さんの事を知り、東京まで聴き行ったりしてファンになられたそうだ。

磨依さんは毎週水曜日18時からハーピスト中村愛さんと担当されていて30分は無料で聴けるそうなので、こちらも是非お聴きしたい。

 

 

『ダマーズ誕生90年によせて』2017年7月の録音。

時代に埋もれてしまって世に知られていない素晴らしい作曲家はダマーズの他にも居るだろうということは容易に想像できる。

ダマーズの魅力が詰まった作品だが、何かそれだけではない現在のクラシック業界に一石を投じる凄みを感じるアルバムである。

そして、玉が転がるような音色は絶品。

11月には今日演奏していただいた曲を含むアルバムを録音されるとのことで、名古屋では難しいと思うがリリースライブも期待したい。

アルバムは OTTAVA の音源制作部門に携わっておられる三ヶ田さんの企画である。

琵琶湖1周サイクリング

 

 

2022.9.11,12 琵琶湖1周サイクリング

ドラゴン服部シェフとの自転車部、6回目

DISTANCE の合計が 196.74km となっているが、道の駅塩津海道かぢかまの里~道の駅湖北みずどりステーションの間が未計測のため、200km超えのロングライド。

毎回ドラゴンシェフから、〇〇が食べたいとか、〇〇に寄りたいといったリクエストを受けてコース設定をするが、今回のリクエストは「琵琶湖1周を完走したい」ただそれだけ。

「食事はコンビニでもいいから完走したい」とのことだった。

 

 

宿泊するホテル以外はまったくノープランで、9月だというのに真夏を思わせる猛烈な暑さにホテルまでたどり着けるのか不安を抱きながら米原をスタート。

適当なところでモーニングをしたかったが、早速ノープランの影響でそれらしい店が見つからず、モーニングにありつけないまま道の駅塩津海道かぢかまの里で昼食をとることにした。

ドラゴンシェフは滋賀県の伝統的な郷土料理の鮒寿しをお茶漬けのセットで、私は冷やしラーメンを注文。

ドラゴンから鮒寿しを2切れ頂戴したが、発酵による臭気が食べる前から鼻を突き、独特の酸味にその2切れを食べ切るのに一苦労。

これをチョイスするとはさすがドラゴンと思っていると、しかめっ面をしていて、どうやらドラゴンも口に合わなかったようだ。

 

 

観光船の桟橋が見えたので休憩を兼ねて写真を撮っていると、乗り場の向かい側にひょうたん亭というお蕎麦屋さんを発見。

ドラゴンシェフがお昼の鮒寿し茶漬けにほどんど箸を付けておらずお腹が空いているということで入店。

 

 

ドラゴンシェフはどんぶりに琵琶湖の風景を映しているという周航そばを、私はざるとろを注文した。

周航そばは温かいものしかなく、このクソ暑い中でも名物を優先する姿勢はさすがである。

ざるとろはとろろがひんやりしてそばの風味と喉ごしも良く美味しくいただいた。

後半もなんとか頑張れそう。

 

 

店内には NHK BSプレミアム『にっぽん縦断こころ旅』で、自転車旅をされている火野正平さんと、他に何人かの芸能人のサインに、嘉田元滋賀県知事のサインもあり、どうやら人気店らしい。

年金生活になったら火野さんみたいにのんびりと日本各地のいろいろな風景を巡りたいが、年金定期便がそんな余裕はないことを毎年知らせてくれる。

それまでに少しでも貯金をしておかなくては。

 

 

ドラゴンシェフの先を行って白髭神社で湖上に浮かぶ大鳥居を撮っていると10名ほどのロードバイクのガチ軍団が前を通過し、20mくらい先で止まって撮影会を始めた。

ドラゴンシェフが「とうちゃこ」して出発しようと思ったが、ガチ軍団を先に行かせたかったので暫く待つも動きそうになく、仕方なく走り出すとタイミング悪くガチ軍団も走り出した。

2人ともガチ軍団に吸収されてしまい軍団の真ん中辺りに位置する形になってしまったが、交通量の多い道路で車の脇を一列になって走っているため、止まることも先に行かすことも出来ず、軍団の流れに従うしかない。

軍団のなかなかのペースに私の前を走るドラゴンシェフは必死にくらいついていたが、軽い上り坂で少し遅れ気味になり「こりゃ千切れるな」と思っていると、もがくように漕いでまたピタリとくっついた。

おそらく己の限界を超えて150%の出力は出ていたであろう姿に火事場の馬鹿力って本当にあるのだと思った。

間もなくしてサイクリングロードが脇道に逸れて止まれる感じになったので「ドラゴン、ストップ」と大声で言うと、軍団全体がピタッと止まった。

あれ?と思っていると、軍団長らしき人物が後方から前に来て「道、合っているよ」との一言でまた軍団は走り出した。

ドラゴンシェフは気力も体力も脚も使い果たした様子で、その後はかなりのペースダウンとなったが、車体重めのクロスバイクであのペースについていったのはめちゃスゴい。

ドラゴンがロードバイクに乗ったらかなり速いだろうな。

 

 

気になる佇まいのお店があったので通り過ぎてからドラゴンシェフを先に行かせてひとりで戻ってお店を覗くと誰もいない。

カウンターに置いてあったベルを鳴らしても反応はなく、もう一度大きめの音で鳴らしてみると奥から「おはぎですか~」と年配の女性の声がしたので、「はーい、お願いします」と返答した。

 

 

お店の佇まいから予想していた通りのおばちゃんが出て来られ、お皿の上に残っていたあんこ3つときな粉1つを注文すると、今日はもう閉店だからといなり寿司を1つサービスして下さった。

10分ほどいろいろとお話しさせていただいて、ほんわかしたひと時に疲れも和らぎ、また琵琶湖を走った際には必ず寄りたい。

 

 

スーパーホテル大津駅前に到着して、フロントで自転車の駐車場所をお聞きしたところ、タイヤを拭けば部屋へ持ち込んでも大丈夫とのことで、拭くためのタオルもお借りすることができた。

私のロードバイクはエントリーモデルなので大した金額ではないが、この日は100万円オーバーであろうTREKロードバイクも見かけていて、そういった高額車に乗っている方も盗難の心配をせずに安心して寝られるので、とてもありがたいサービスである。

 

 

夕食は先ほど購入したおはぎとサービスでいただいたいなり寿司。

おはぎは草餅をベースに粒あんときな粉がまぶされていて、ゴツゴツした見た目は手作り感に溢れ、やさしい甘さはくどくなく、普通サイズの3個分くらいはあろういなり寿司はお揚げがジューシーで、どれも大満足の美味しさ。

お腹も心も十分に満たされ、改めてまた寄りたいと思った。

 

 

2日目は雲ってくれと願ったが、その願いも空しく連日のピーカンとなった。

むしろ1日目より暑いくらいで、運動するのは危険なレベル。

琵琶湖のサイクリングロードはコースのほとんどが湖に沿っていてとても走り易いのだが、湖側にはオートキャンプ場があるくらいでほとんど何もなく、対向車線側に渡る信号も滅多にない。

なので、熱中症にならないように水分補給をしたいと思っても、コンビニが無ければ自販機も見当たらない時間が延々と続き、しかも猛烈な日差しを遮るものもなく、かなりヤバイ状態になった。

そんな時、オートキャンプ場の受付にチラリと見えた自販機を見逃すことはなかった。

麦茶を一気飲みして水分とミネラルを身体中に染み渡らせて何とか命拾いできだが、再び漕ぎ出せば補給した分だけ滝のように汗が流れ出る。

水分補給はこまめにチビチビと取るのが常識であることは言うまでもない。

 

 

琵琶湖大橋は琵琶湖のくびれている部分、大津市守山市の間に架かっており、橋の北側を北湖、南側を南湖、と呼んでいて、北湖1周や南湖1周をする場合には渡るが、琵琶湖全体を1周するときには渡る必要はない。

でも、自転車は無料だし、折角なので守山市側から往復することにした。

 

 

橋からの眺めは湖ではなくまるで海。

山並との美しい調和は琵琶湖ならではで、水面の静けさも一服の清涼剤。

アーチ状になっている橋は上りは少々苦労したが、下る時の爽快さは格別だった。

ひゃっほー!

 

 

夕方になっても西日が突き刺さるように熱く、1日目の走行距離を長めにして、2日目はゴールの近くにある彦根城でのんびりできればと思っていたが、そこまで行く気力もなくなっていた。

2日目の食事はホテルの朝食バイキングとこの羊羹だけ。

ドラゴンシェフから「食事はコンビニでもいいから完走したい」と言われた通り、最期の食事はローソンで済ませ、無事完走。

ドラゴン、お疲れさまでした。

またよろしく!

little flower coffee

2022.9.10 little flower coffee

 

お昼に中京テレビ『ゴリ夢中』を見ていると、瀬戸市に移住されて瀬戸銀座商店街でお店を始められたみなさんを紹介していた。

 

 

ちなみに私の愛車はゴリさんが番組中で乗られている自転車と同じ赤のDAHON

ゴリさんのはおそらく16インチ3段変速だと思うが、私のは20インチ8段変速と少し大きめ。

もちろんゴリさんが乗っているのを見てカッコイイと思いコイツにした。

 

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その中で4月のオープン初日に伺った little flower coffee にもゴリさんが立ち寄られ、ゴリさんとの会話の中でオーナーの本田さんが瀬戸に決めた理由として「瀬戸を盛り上げる未来が頭に浮かんだ」と話され、シャッターが閉まっていく商店街を見て「さびれたなー」としか思っていなかった自分が恥ずかしかった。

私もブログの中で少しずつでも瀬戸を紹介していこうと思う。

ということで、ブラピの新作映画を観た後に little flower coffee に伺った。

 

 

本田さんは以前に表参道でバリスタをされていたが、せともの祭りのこの日の深川神社の参道はさながら竹下通りで、せともの祭り限定のバームクーヘンサンデーとコーヒーゼリーラテをいただいた。

バームクーヘンサンデーは自慢の無添加バームクーヘンに自家製アイスクリームが添えられており、そのアイスクリームは7月から新戦力として加わったイケメンパティシエによるもの。

なめらかなアイスによりバームクーヘンはしっとり美味しく、相性はバッチリ。

 

 

入口側のカウンターで注文して、中ほどでドリンクを受け取り、バームクーヘンサンデーを注文した方は奥で受け取るという流れで、店内が混んでいてもスムーズに流れていく。

せともの祭りは9月11日も開催されるので、是非。

 

 

 

 

 

オープン当初スイーツはバームクーヘンのみだったが、今は5種類ほどのケーキが日によっていろいろと食べられ、ショーケースを見ているだけでも楽しい。

イケメンパティシエは名店ピエール・プレシュウズで商品開発をされるなど、確かな技術と美し発想を持ち合わせて、どれも美味しかったことは言うまでもない。

ピエール・プレシュウズは長久手杁ヶ池公園にお店があったときには何度か伺ったことはあるが、覚王山のお店はおっさんがひとりでは入りづらくて行ったことがなく、このクオリティのケーキが瀬戸で気軽に食べられるとは有り難い。

しかもスペシャルなコーヒーと一緒にいただけるのだ。

『無垢の祈り』 5周年記念上映会inシアターカフェ

 

2022.9.8 『無垢の祈り』 5周年記念上映会inシアターカフェ

 

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いじめ、児童虐待、DV、新興宗教、孤独、貧困、猟奇殺人、等々、現代社会を取り巻く様々な問題を灰色の空の下、絶望の目で見つめる少女。

その少女の号哭にも似た祈りに言葉を失い、しばらく席を立つことができなかった。

5年前にシネマスコーレで鑑賞したときの衝撃は鮮明に覚えている。

 

 

ソフト化されていないため、もう観る機会はないと思っていたので、5周年を記念しての上映を見逃がすことはできない。

できれば亀井監督、人形遣い・綾乃テンさんの舞台挨拶の日に伺いたかったが都合が合わず、でもオーナーの江尻さんから監督のお話を少し聞くことができた。

あまりにも壮絶な映像に撮影当時10歳だった福田美姫さんの事を心配する声が多かったそうだが、定期的に会っていてトラウマなどなくすくすくと成長しているとのこと。

17歳になった現在は身長が170cmに伸びスレンダーな美人になられたそうだ。

映倫を通っていない作品だが自主的に18禁としたのは観た人によるいじめを懸念してのことで、本人もまだ鑑賞しておらず、来年18歳になってから鑑賞されるとのこと。

とても撮影できないカットは綾乃テンさんが操る人形が代役となるが、それでもなまなましく辛い。

 

 

パンフレットもサントラ盤も作られていないが、グッズがいくつかあり、5周年バージョンのマグネットステッカーをゲット。

全編に流れる工業地帯の機械音は現代社会の歪みにもそれに押し潰される人々の悲鳴にも聞こえ、ラストに流れるバイオリンはまさに少女の慟哭。

ずっと感情を表に出さずラストを迎えるのだが、その祈りを知ってから観た2回目はすべてのシーンが心に突き刺さってきた。

誰かが撮らなければならないが、誰もが避けるであろう作品を撮っていただいた亀井監督に感謝致します。

今日、9日の18時からの上映がラストとなる。

万人にオススメできる作品ではないが、多くの方に観ていただきたい。

audace


2022.9.4 Tamako

audace 北田学 (クラリネット) 伊藤志宏 (アコーディオン)

誕生日の前祝いでケーキを頭に乗せている学さんと、フンコロガッソの普及に余念がない志宏さん。

 

 

まだ明るさが残る18時過ぎに開演して、夜の帳が下りていくのを見ながらのスペシャルライブとなった。

窓の外の空はゆっくりと青に染まっていき、その青が濃くなり、やがて黒へと変わっていく。

マジックアワーの中でのマジックミュージック。

魔法のようなアンサンブルは止めどなく溢れ出て、次から次へと変化していき、国籍不明の旋律は様々な色合いを奏でる。

その魔法の呪文は「フンコロガッソ」。

「フン!」と来れば「コ!」と返し、「フ!」と来たら「ンコ!」と返さなければならない。

一般的にはコール&レスポンスと呼ばれるが、言わせている方が喜んでいるので、それとはちょっと違い異様な盛り上がりを見せる。

この楽しさは来なければわからない。

 

 

店内を移動しながらの演奏は2人でありながらサラウンドのように会場を包み込み、厨房に入っての即興コントは会場を笑いで包み込む。

今日のおすすめは「砂肝のおいしいやつ」。

学さんの顔が『深夜食堂』の小林薫さんにしか見えなくなった。

ドラマーの橋本学さんから「天才だらか」と教えていただいていてずっとお聴きしたかった学さん。

何度か機会はあったがタイミングが合わずようやくお聴きでき、確かに学さんのお言葉通り。

譜面を一切は使わず魔法のように美しく複雑な旋律が途切れなく紡がれていくのに永遠を感じ、譜面台の上ではフンコロガッソがずっと寝転んで聴き惚れていた。

 

 

「チャンス、チャンス」「何のチャンス?」と始まれば「シャッターチャンス」のことで、その曲の間は写真撮影がOK.。

そんなチャンスがあるとは知らず、電源を切ってカバンに入れていたスマホを急いで取り出しチャンスゲット。

 

 

ツアー最終日なので各地のライブの様子や珍道中のオモロー話も満載で、尾道から広島へ向かう途中の一枚での志宏さんの後ろ姿は学さんの影が前を歩いているかのよう。

まさにふたりでひとり。

とら男

 

2022.9.3 名古屋シネマテーク 『とら男』

舞台挨拶 村山和也監督 西村虎男さん 加藤才紀子さん 長澤唯史さん

 

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1992年に金沢市にあるスイミングクラブの女性コーチ安實千穂さん(当時20歳)の遺体が勤め先の駐車場に停めた本人の車の中から発見されるという事件が発生したが、犯人逮捕に至らぬまま2007年に時効を迎えた。

 

 

その実際に起きた未解決事件を追った作品で、そのような作品はいろいろとあるが、他の作品と一線を画すと言える見どころのひとつは、事件を担当した刑事である西村虎男さんが主演されていることである。

石川県出身の村山監督が子供の頃に遊んでいた公園が犯行現場の近くだったことよりずっと事件に興味を持たれていたそうで、虎男さんの著書『千穂ちゃんごめん!』を読んで直接お話を伺って映画化を決められたそうだ。

虎男さんの他にも事件を証言する人々やホテルの従業員など、地元の方が多く出演されており、ドキュメンタリータッチで事件の核心部分に触れていくリアル感はザラザラした本物の手触り。

 

 

メタセコイアは「生きた化石」と呼ばれる事件のカギを握る植物で「化石のような事件」とダブルミーニングになっていて、法的には時効になっても事件はまだ生きている。

加藤才紀子さん演じるかや子がメタセコイアを卒論のテーマとして選んだのだが、すでに研究し尽くされていて「もう終わったことだから」と先生から言われてもそれを求めて向かった金沢でとら男と出会い、あきらめない執念のようなものはとら男に通じる。

劇中でとら男との捜査会議や聞き取りなどで丹念にメモを取っているのだが、その調査日誌がパンフレットになっていて、その中にある似顔絵や植物のスケッチはご自身が描かれており、よくぞここまで調査されたといった充実の内容で、かや子の成長がストーリーのもう一つの柱となっている。

 

 

数日前に阿部寛さん主演の「異動辞令は音楽隊!」を鑑賞したが、阿部さん演じるある事件を追っていた鬼刑事と同様に虎男さんも捜査から外されたそうで、クライマックスで見せた鋭い眼光は阿部さんにも負けない演技で、いやおそらく自身が真犯人だと考えるその人物を睨んでいた本物の目なのだろう。

まったくの素人を主演に大抜擢した村山監督の目も本物である。

 

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村山監督は中年の織物職人が地下アイドルにハマっていく短編作品『墜ちる』を鑑賞していて長編作品を楽しみにしていたが、初の劇場用長編映画でかなり難しいテーマに取り組まれている姿勢に凄みさえ感じ、驚きを持って鑑賞させていただいた。

ラストの映像はたまたま偶然に撮ることができたそうで、すべてのタイミングと状況が合致した監督の執念が生んだ名場面である。

tryphonic tour 2022

 

2022.08.27 Caballero Club 

tryphonic 山田貴子(pf)  小美濃悠太(ba)  斉藤良(dr)

 

 

Morphine Desert -trio acoustic- での小美濃さんのライブパフォーマンスに魅了されて Caballero Club に足を運んだ。

Morphine Desert では全曲ともリーダーである北川とわさんのオリジナルで、とわさんが描いた世界観を表現すべくプレーヤーに専念されていたが、この夜の tryphonic は3人がリーダーとしての一翼を担うスタイルで、絶妙なバランスによって生まれた音は個性と魅力に溢れていた。。

 

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アルバムの3曲目に収録されている『A Thrown Ball』は小美濃さんのオリジナルで、「賽は投げられた」的な意味にも捉えられそうなタイトルだが、5分ほどで書き上げたメロディをあとはよろしくといった感じで「丸投げ」したことからのタイトルとのこと。

その丸投げしたボールをラケットとバットと足で打ちあうような演奏は壮絶なカッコ良さ。

2ndステージのラストの貴子さんのオリジナルはコロナ禍で創作意欲がまったく無くなり投げ出したままの曲を少し前に書き上げたという新曲。

前半の色彩豊かなドラムは荒れ狂いうねる波を奏でているようで、丸投げとは違うがドラミングにゆだねる部分が大きく、後半はそのドラムとピアノが力強く絡み、ドラマチックで壮大なストーリー。

アルバムの2曲目で良さんの唯一のオリジナル『Cala Rossa』はご本人曰く「ふたりに助けてもらった」とのことで、そのふたりは五線譜に書かれた音符を読むのでなく解読されたそうだ。

五線譜に慣れ親しんでいないドラマーが自分の意図することをそれに落とし込むという作業は大変であることは想像に難くないが、もしかしたら良さんが意図した以上に良い作品に仕上がっていたのかも。

どの曲もこのトリオだからこそと言える。

 

 

アルバム『Fiction』の季節感のないジャケットは、ブラジル・日本・北欧、三者三様のルーツの違う音が混じり合うことで新たな物語を創造するという意味であろうし、アルバムタイトルでもある小美濃さんのオリジナル『Fiction』の美しく切ない旋律と感情を揺さぶるリズムはアンデルセン童話を想起させ、その童話の主人公達のようにも見える。

 

 

初めてお聴きした貴子さんのピアノは、様々な感情表現が豊かに奏でられ、高度なテクニックだがそれが邪魔になっておらず、曲に込められた想いがダイレクトに伝わってくる魅力的な音色だった。

笑顔が絶えない天然キャラといった印象で、それが作られたものではなく自然に湧いて出ていて、人間性が音に現れているのだろうと思っていると、Facebookでお父さんの誕生日の様子を投稿されていているのを拝見して納得した。

30年近くパーキンソン病を患っている父の誕生日を祝う娘と母、そのトリオのやり取りと大爆笑に、こりゃ大抵のアーティストは勝たんわと思った。

 

 

良さんをお聴きしたのも初めてだが、ありとあらゆるところを叩いていて、情景が浮かぶカラフルでリズミカルなドラムをお聴かせいただいた。

割れているシンバルは60年物らしく、ボロ過ぎてもらった日に割れてしまったそうだが、日々ヒビが増えて響かなくなったのを利用してそれが味になったり、しなるような物で叩かれている曲があったので、どういうアイテムかお聞きしたところ、壁に鎖が刺さっていたので衝動的に引っこ抜いて使ったらまったく音がでなかったのでびっくりしたとのことで大爆笑になり、自由な発想もブラジル的なのか。

 

 

音楽のルーツは三者三様だが、サインにはそれぞれ謎のキャラクターが書かれていて、そのどれもが楽し気で、たぶんその一致が大切なのだろう。